NIPPON NO ROCK BAND(KUWATA BAND-Album<No.1>)

2023年7月8日土曜日

KUWATA BAND アルバム

t f B! P L

《NIPPON NO ROCK BAND》★★★

発売日:1986/07/14
チャート最高位:1位(オリコン)
売上枚数:78.4万枚

レビュー

桑田佳祐の基本的な思考には、「現状に満足しない」という傾向が随所に見て取れる。普段のレコーディングやライブにおける細部までのこだわりもしかり、2008年のサザン活動休止時もしかり、決して現状に満足せず、常に新たな道を模索していこうという、一種の焦燥感にも似た思いがあるからこそ、ここまで第一線で息の長い活躍ができているのだろう。
KAMAKURA」という超大作を作り終え、妻でありキーボーディストの原由子が出産・育児により活動を制限される中で、サザンでは成しえない新たな活動をしてみたいという欲求が最高潮に達したのだろう、桑田佳祐はここから新たな道を模索することになる。
当時のミュージック・マガジン(1986年11月号)によると、サザンの生みの親とも言えるビクター高垣健氏の話として、「とにかくパワフルなものがやりたい、日本とかアメリカとかいう意識なしで自分が影響を受けた音楽をそっくりそのままやれたら面白いんじゃないかというのがあった」「英語で歌うほうがいいんじゃないかということは、(アルバムを)レコーディングしているうちに出てきた。」という当時の桑田の心境が語られている。
さらに同誌には、「私がやっているのはロックではない。日本語の歌がのれば、それは絶対歌謡曲なんだ」と言っているアン・ルイスの言葉に共感した桑田が「ロックをやるというのであれば、(世界中の大多数のロックミュージシャンが使用している言語である)英語でやるのが筋だ」という思いに至ったこと、一方で「洋楽で受けた刺激を日本語なり日本人向けにする、そのはざまの努力はこれからも続けていきます。」と言い、サザンのような楽曲づくりもそれはそれとして続けながらも、本物のロックもやりたいんだ、というメッセージが、桑田本人の言葉として掲載されている。

「いつかデタラメなロックをやってみたい」「ロックはやはり英語」という、洋楽ロック(ブルース)へのあこがれと、自分もいずれは海外に進出したいという思いからか、これまでのサザンのイメージをすべて捨てて、全曲を全編英語詞の曲で固めるという、超絶異例のアルバムをリリースすることとなる(一方でシングル曲は、サザンの系譜を受け継いだ上質なポップスなのが、いかにも桑田らしいバランス感覚なのだが)。

本バンドにパーカッションとして参加した今野多久郎氏によると、桑田から「トラック1台借りて、日本中回れるロックバンドをつくろう。ドラムは弘に決めた、後のメンバーは任せた」と言われ、それから1ヶ月も経たないうちにリハが始まり、1年間の活動のうち6カ月はレコーディングに費やされたという。
また、前出ミュージック・マガジンでは、高垣氏が「1985.12の原坊の誕生パーティーで今野と桑田でバンドつくろうとなった。」と言っており、まさに当時の桑田の勢いそのままに突っ走ったというバンド活動だったようだ。

結果としてこの挑戦は、セールス的には悪くなかったものの、その後のソロライブで本アルバムからの曲はほとんど演奏されない(シングルはわりと演奏されるにもかかわらず)ことを見ると、本人的には納得できるものが得られなかったのだろう。
サザンがデビューするちょっと前、ロックは英語で歌うべきか否かという「日本語ロック論争」なる不毛な論争があったとされており、桑田も当然それは頭にあっただろうし、一度自分の実力でこの論争に挑んでみたいと思ったのであろうが、いい悪いは別にして、結局自分の肌には合わなかった、自分の生きるべき道はここではないということに早めに気づけたということにおいても、ここまで振り切った活動をした意味は大きかったと思う。
またサザンの枠を払い、名うてのミュージシャンたちと、みんなでセッションしながら音を膨らませて曲をつくっていくという濃密で凝縮された行程の中で、自らの音楽の守備範囲を広げていくことにもつながったのは、その後のソロ活動としての充実ぶりを見るに、非常に意味のある活動であったことは確かだ。
そう考えると、結果論にはなるが、桑田にとってのKUWATA BANDの活動は、この後かつてない黄金期を迎えるための、大事な助走期間であったことは確かだと思われる。

再びミュージック・マガジンの話に戻るが、当時同誌で音楽評論をしていた藤田正氏はこのアルバムを誌面で酷評し、それに対する反論が上記の桑田本人のメッセージとして寄せられたようだ。しかし、藤田氏は上記の反論を受けてもなお、「もちろんこれが第一のステップだとは承知の上だ」が、「サザンを休んでまでした桑田さんの熱い思いは見えない」「(KUWATA BANDの演奏曲を聞いて)コピーみたいだと思ってしまった理由は、桑田さんのヴォーカルにある。そのヴォーカルを聞いていると、ずんずん平板になっていってしまうようにぼくには思えた」と評している。

私も「コピーだと思ってしまった」という部分は特に共感できる。桑田佳祐とサザンオールスターズが奏でていた、あの「ロック・ブルース」×「日本の情念」がサザンの魅力であり、その楽曲達が桑田佳祐のヴォーカルに乗ることで唯一無二の艶っぽさを持つ極上のJ-Popだったはずなのに、本アルバムの楽曲は、単なる洋楽コピーバンドの曲にしか聞こえないため、全体で見ると、あまり心を打つようなものではなく、わざわざ引っ張り出して聴くようなことはほとんどない(なのでこのレビューもあまり書くネタがない)というのが、正直な私の感想である。

(1) SHE'LL BE TELLIN' (真夜中へデビューしろ!!) ★★★★

作詞 Tommy Snyder
作曲・編曲 KUWATA BAND

アルバムのオープニングを飾るにふさわしい疾走感あふれるナンバー。ただ、それ以上でもそれ以下でもない。
一つだけ言えるのは、桑田は歌がうまい。この頃は声も絶好調に出ており、こういう歌い方をさせたら日本のヴォーカリストでは有数の力量ではないか。

(2) ALL DAY LONG(今さら戻ってくるなんて) ★★

作詞 Tommy Snyder
作曲・編曲 KUWATA BAND

80年代っぽい、AORっぽい雰囲気をまとった、シンセの空気感あふれたミドルテンポのナンバー。出だしはサザンっぽくもありよいのだが、サビが単調すぎてあまりいい曲だと思えない。

(3)ZODIAK(不思議な十二宮) ★★★

作詞 Tommy Snyder
作曲・編曲 KUWATA BAND

訳詞を読むと、超常現象について歌っている曲のようだ。なんとなく「開きっぱなしのマッシュルーム」を思い起こさせる曲調である。

(4)BELIEVE IN ROCK'N ROLL(夢見るロック・スター) ★★

作詞 Tommy Snyder
作曲・編曲 KUWATA BAND

T.Rexとかローリングストーンズあたりの70年代ロック風の曲調にシンセをプラスしたといった感じの曲。特筆すべきところは特にない。

(5)PARAVOID (彼女はパラボイド) ★★

作詞 Tommy Snyder
作曲・編曲 KUWATA BAND

レッド・ツェッペリンの「移民の歌(Immigrant Song)」っぽい出だしで始まるなぁという印象だけが残る。

(6)YOU NEVER KNOW(恋することのもどかしさ) ★★

作詞 Tommy Snyder
作曲・編曲 KUWATA BAND

Aメロの部分が「稲村ジェーン」に収録されている「LOVE POTION No.9」に似てるなぁ、という程度の印象しかない曲。

(7)RED LIGHT GIRL(街の女に恋してた) ★★★★★★★

作詞 Tommy Snyder
作曲・編曲 KUWATA BAND

レビューを書くにあたってあらためてこのアルバムを聴き直して、心に残ったのがこの曲。まぁ、まんまクラプトンなのだが、桑田はやっぱりクラプトンが大好きなのだ。1999年に行われたAct Against Aigs「エリック・クラプトソ」で、クラプトンのカバー曲を演奏していた時の桑田は、まるでクラプトンが乗り移ったかのように気持ちよさそうに歌っているなぁと感じたが、まさにこの曲も同じ。出だしの「Waitin' for you my woman」の「Woman⤴」の歌い方が実に気持ちよさそう。
曲もオシャレで洗練されていて、気持ちがノッていけるよきナンバー。今でもライブでやったらコア層は絶対に盛り上がるのに。

(8)GO GO GO(愚かなあいつ) ★★★

作詞 Tommy Snyder
作曲・編曲 KUWATA BAND

ローリング・ストーンズっぽいというか、古き良きブリティッシュ・ロックのテイストを感じる曲。

(9)BOYS IN THE CITY(ボーイズ・イン・ザ・シティ) ★★★

作詞 Tommy Snyder
作曲・編曲 KUWATA BAND

サザンでいうところの「メリケン情緒は涙のカラー」や「マチルダBABY」のような80‘sっぽいノリのよいロックナンバー。

(10)DEVIL WOMAN(デビル・ウーマン) ★★★

作詞 Tommy Snyder
作曲・編曲 KUWATA BAND

この曲のヴォーカルも、(7)とは違う路線の曲だが、クラプトン節の炸裂したものだ。

(11)FEEDBACK(理由なき青春) ★★★

作詞 Tommy Snyder
作曲・編曲 KUWATA BAND

本作品唯一の桑田以外のヴォーカル曲。ヴォーカルを取ったのはギターの河内淳一氏。跳ねたロックナンバーに彼の声はよく合っており、悪くない。「さんまのまんま」でもオープニングテーマとして使われたんだそう。一説によれば、この曲のレコーディング中に日本語詞と英語詞のチャンポンがうまくいかなかったことから、本アルバムは全英語詞という方向性になったとも言われているようだ。

(12)I’M A MAN(アイム・ア・マン・フロム・ザ・プラネット・アース) ★★★★★

作詞 Tommy Snyder
作曲・編曲 KUWATA BAND

これはまぁまぁ好きな曲。好みの問題なのかもしれないが、やはり桑田には情緒的なメロディを求めてしまう自分がいる。
サザンのシングル「Tarako」を想起させる味わい深いメロディが心地いい。アレンジや歌詞がより情緒的であったなら、お気に入りの一曲に化けたかもしれない。

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