Keisuke Kuwata(桑田佳祐-Album<No.1>)

2023年12月28日木曜日

アルバム 桑田佳祐

t f B! P L

《Keisuke Kuwata》 ★★★★★★

発売日:1988/07/09
チャート最高位:1位(オリコン)
売上枚数:65.5万枚

レビュー

ソロ名義でのデビューアルバム。「骨太」「パワフル」な印象の強かったKUWATA BANDでの活動には一旦満足したのか(はたまた「反省」したのか)、「繊細」で「洗練」された楽曲群が並ぶアルバムとなっている。それは、「KAMAKURA」でタッグを組んだ藤井丈司に加え、まだそれほどメジャーではなかった小林武史が楽曲制作に加わったのが大きな要因であろう。
悲しい気持ち」のレビューでも書いたが、やや粗雑な印象のあった初期のサザンオールスターズの楽曲をキレイにまとめ上げ、珠玉の「ポップス」に仕立て上げた小林武史の功績は大きい。ここから1993年まで続く桑田&小林タッグは、桑田佳祐の全盛期ともいえるソングライティングと、小林マジックによる装飾の相乗効果により、神がかった名曲をいくつも生み出した。このアルバムも全体的に捨て曲が少なく、普遍的な良さのある曲が多いため、何度聴いても本当に名盤だと感じる。
そして、楽曲の良さやアレンジの良さに加えて、桑田佳祐という「ヴォーカリスト」の進化の著しさが目立っているアルバムでもある。これまでは、子音(特に「タ行」)を爆発させるような独特な発音で、がなるように歌う、いわゆる「桑田佳祐のモノマネをする人」がやるような歌い方が特徴だったが、このソロ活動期においては、(2)(6)に見られるように、低音部分で抑え気味にささやくような柔らかい歌い方も目立つようになり、それは今までのサザンにおける「いとしのエリー」「Ya Ya(あの時代を忘れない)」「メロディ(Melody)」「Oh!クラウディア」など、名だたる名バラードで見せるヴォーカルとも一線を画すものだ。もともとベストヴォーカル賞を取るだけのヴォーカリストなのであるが、この歌い方を自分のものにすることで、楽曲だけでなく表現力においても、他の追随を許さない振れ幅を持つミュージシャンとしてこの後長く君臨することとなる。また、(12)のようにファルセットで魅せる曲もあり、この頃から90年代の桑田のヴォーカルはまさに全盛期だったように思う。

(1) 哀しみのプリズナー ★★★★★★★

作詞・作曲 桑田佳祐
編曲 小林武史 with 桑田佳祐、藤井丈司

アルバムの始まりを告げるように高らかにかき鳴らされるギターのイントロではじまる1曲目。80’sっぽいサウンドのイントロの後、いつもに増して英語なのか日本語なのかよく聞き取れない桑田の「サーヘージューオークラッシュクレー♪」というヴォーカルが。歌詞カードを見ると「さぁ部屋中を暗くしてくれ」と書かれている。これを見たときはさすがに笑った。私は後追いリスナーだが、KUWATA BANDでオール英語詞アルバムを経験したファンにとって、「またも(シングル以外)全英語詞ではあるまいな」とこの歌い出しを聴いて思ったリスナーがいてもおかしくはないほど、英語にしか聞こえない(というか、日本語に聞こえない)。
楽曲の勢いから一見、KUWATA BANDの延長のように聞こえなくもない楽曲だが、KUWATA BANDではほとんど見られなかった情念や湿度感がしっかりと含まれており、骨太さだけではない桑田佳祐の魅力が最大限引き出されている。小林武史が、桑田佳祐楽曲の魅力の位置をしっかり把握した上でアレンジを施しているのがよくわかる。
ライブではたまにしか演奏されない曲だが、2007年のツアーで1曲目として演奏されたのが印象に残っている。やはり1曲目が超絶似合う曲である。楽曲としてはそこまで知名度は高くないが、桑田佳祐の知られざる名曲を挙げるとすれば?という問いには少なからず手の上がる曲ではないだろうか。
この頃はアン・ルイスと仲が良く、この曲にも目立たないがコーラスで参加している。

(2) 今でも君を愛してる ★★★★★★★

作詞・作曲 桑田佳祐
編曲 小林武史 with 桑田佳祐、藤井丈司

これもまた秀逸な曲。山下達郎氏の影響なのか、この頃あたりから桑田は「一人多重コーラス」の作品をたまに作るようになるが、本格的なものはこの曲のイントロ及び間奏で登場するものが初ではないだろうか。コード進行もオシャレで、80’sシティポップス時代の香りが存分に味わえる。
冒頭のレビュー部分でも述べたが、桑田の「低音ささやきヴォイス」の進化がよくわかる曲で、アレンジの音数が少ないこともあり、歌のうまさが非常に際立つ1曲だ。
サビの終わり方も非常に独特で、今までのサザンの楽曲では見られなかった世界観を堪能できる曲だ。

(3)路傍の家にて ★★★

作詞・作曲 桑田佳祐
編曲 小林武史 with 桑田佳祐、藤井丈司

何というか、聞いたこともないような種類の曲であり、桑田の奇才ぶりに感嘆するほかない。

(4)Dear Boys ★★★★★

作詞・作曲 桑田佳祐
編曲 小林武史 with 桑田佳祐、藤井丈司

桑田家には二人の息子さんがいるが、二人目が産まれたのがちょうどこの頃で、二人の息子さんに向けた書かれた曲と思われる。
一般的に自身の子に対してつくられる楽曲は、もう少し夢や希望や愛に満ちたメロディになりがちだが、そこは全盛期の桑田佳祐、そんなフォーシームは投げない。敬愛するLennonのような、そこはかとなく物憂げなメロディに乗せて、非常に抽象的な詩を乗せてくるが、それでも子への愛情に満ちたものであることが感じられる、非常に質の高い作品。

(5)ハートに無礼美人 (Get out of my Chevvy) ★★★★★

作詞・作曲 桑田佳祐
編曲 小林武史 with 桑田佳祐、藤井丈司

ビッグバンドジャズ風のブラスに乗せた、ノリノリのビートが印象的なナンバー。歌詞は韻を踏みまくりながら、お得意のエロ満載。ともすればサザンっぽくなりがちだが、そこはWタケシのマジックがしっかりかかっており、今までのサザンナンバーとは一線を画している。
かなりノレる曲だし演奏し甲斐もありそうなので、ライブで頻発されても良さそうな曲だが、私が知る限り、2001年の札幌、2002年のドームツアー以来演奏されていない。転調後のサビが桑田のヴォーカル音域にしてはかなり高いメロディなので、これがセットリストに選ばれない要因かもしれない。

(6)いつか何処かで (I FEEL THE ECHO) <桑田佳祐-Single.2>


(7)Big Blonde Boy ★★★★

作詞・作曲 桑田佳祐
編曲 小林武史 with 桑田佳祐、藤井丈司

この頃の桑田はこういうシンセサウンドの曲をたまに書く。サザン名義のアルバム「Southern all stars」収録の「政治家」や、「世に万葉の花が咲くなり」の「ホリディ スリラー「魔の休日」より」なんかに通じる楽曲だろう。
悪い曲だとは思わないが、特に積極的に聴くこともないタイプの曲。

(8)Blue ~こんな夜には踊れない ★★★★★★★

作詞・作曲 桑田佳祐
編曲 小林武史 with 桑田佳祐、藤井丈司

いやぁ、オシャレ。メロディラインこそムード歌謡のようなエッセンス満載なのだが、ダンサブルなアレンジがしっかりと施され、このアルバムならではの仕上がりになっている。サザン名義であれば、もしくはコバタケがいなければ、もう少し歌謡テイストな曲になっていたかもしれない。
サビの英語詞も秀逸で、歌うと気持ちいい。原曲の怪しげなアレンジももちろん大好きだが、2022年のライブツアー「お互い元気に頑張りましょう!!」で演奏されたアコースティックアレンジもとても良かった。2015年発売のSuperflyのアルバム「WHITE」でこの曲がカバーされている。Superflyは「スキップ・ビート(SKIPPED BEAT)」もカバーしており、この時期の桑田作品に思い入れがあるようだ。

(9)遠い街角 (The wanderin' street)  ★★★★★★★★★

作詞・作曲 桑田佳祐
編曲 小林武史 with 桑田佳祐、藤井丈司

このアルバム収録曲中、シングル以外ではナンバー1に好きな曲。このアルバムには(2)(6)(12)など、メロディメーカーとしての桑田佳祐と、コバタケ、フジタケのトッピングアレンジが絶妙に組み合わさった、切なくも心温まるナンバーが多いアルバムの中でも特に秀逸だと思っている。
この曲のレコーディング当時に、「カーペンターズの曲みたいな感じで」とコバタケにイメージを伝えたかどうかは定かではないが、カーペンターズの名曲「(They Long to Be) Close to You(邦題:遥かなる影)」に雰囲気がそっくりであり、実際2007年のソロライブでこの曲を演奏する際、「(They Long to Be) Close to You」を導入部分にしていた。
歌詞で言うと、スージー鈴木著「桑田佳祐論」では、この曲も含めて数多くの桑田作品に登場する「忘られぬ」という日本語の特殊さについて述べられていて興味深いが、確かにあまりに桑田の歌詞には自然に登場しすぎて、本来の送り仮名とは異なることに全く気付かなかった。意図してやっているわけではないのだろうが、この辺りの感覚というかセンスというか、これが桑田佳祐のすごいところ。
そして歌唱法に触れれば、サビの「Oh~ Oh~」の部分。「Wow Wow(ウォウウォウ)」ではなく、「オーッ、オーッ」と、喉の奥で一音ずつ切るような桑田の発声法が私はたまらなく好きだし、カラオケでこれを歌うととても気持ちがいい。なお、コーラスには地味に竹内まりやも参加している。発売当時はフジフィルムのCMソングとして使用されていたが、2021年、33年ぶりにユニクロのCMソングとして起用されている。

(10)悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)<桑田佳祐-Single.1>


(11)愛撫と殺意の交差点 ★★

作詞・作曲 桑田佳祐
編曲 小林武史 with 桑田佳祐、藤井丈司

もったりとした曲で、私の中ではこのアルバムで数少ない捨て曲の1つ。桑田お得意の社会風刺っぽい歌詞だが、いまいち何を伝えたいのかはわからないし、メロディも謎。桑田のあまりにも幅広な音楽性ゆえに、私には良さがわからず、ついていけない曲。最後の方に桑田のご長男のかわいらしい「オーライ」という声が入っている、という話題もあるようだが、別にそのために聴きはしない。

(12)誰かの風の跡 ★★★★★★★★

作詞・作曲 桑田佳祐
編曲 小林武史 with 桑田佳祐、藤井丈司

アルバムのラストを飾るにふさわしい名曲。コーラスとファルセットで聴かせるという、少なくともこれまでのサザンではほとんど見られなかった手法で、桑田とコバタケ、フジタケの3人で制作されたアレンジは素材の味を十分に味わえるように、音数も少なくシンプルかつ繊細なものとなっており、まさに夏の風が吹き抜けるようなさわやかで切ない楽曲。
ちなみに、ライブでも比較的コンスタントに演奏されるが、初めてライブバージョンで聴いたとき、今まで自分がメインだと思っていたサビのメロディが実は違っていたという衝撃の事実を今でも覚えている。

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